2014年3月20日木曜日

息子の柔道から「師弟愛」を考える。(後編)

師弟愛・友愛・夫婦愛・親子愛……、いろいろな「愛」を深めたい。

「青は藍より出でて藍より青し」は育成法の極意

息子の柔道から、ふと浮かんだ「青は藍より出でて藍より青し」を想起してみたい。

中国の思想家、荀子の勧学にあり、耳に、目にすることが多いと思う。青色の染料は、藍より取るが、原料の藍よりも青いの意から、教えを受けた人が教えた人より優れることをいう。弟子が師より優れていることのたとえである。「藍」から多くの工程を経て生まれた「青」が、努力を重ね成長し、「藍」より素晴らしい「青」になっていくこと、を表す。

これは部下への育成法の極意でもあるとも思っている。
「俺ができたのだから、お前もやれ」ではなく、「俺はできなかったから、お前にはやってほしい」という発想の方が、部下が伸びる。
これは、教える上司が成長しなければ出ない言葉である。上司は、地位にしがみつくのではなく「自分を超えろ~」と本気で思い、自分の経験を超えて、部下と接していくことである。



自己の成長を止めた上司は、過去に培った自分の考えを部下におしつける傾向がある。
よく見られる場面、上司が、かっこよく部下に「よし、やってみろ。あとは俺が責任をとるから」と言う。しかし問題はそこで丸投げをする御仁が多いことだ。
これは大きな間違いだと思う。「任せる」と「丸投げ」は全く違う。
「丸投げ」された部下は、成長できない。彼も今までの経験と、培った概念でしか判断できないからだ。都度、嫌われようと途中経過を尋ね、部下とは違う観点から指摘することが重要だ。上司か部下が異動すれば尚更で、お互いの持っているスキルや経験則を交換することで、成長へのきっかけになるからだ。
そうやって出来上がった仕事が、うまくいかなければ、当然上司は責任を負うわけだが、それは納得できる責任になる。

得たご縁、環境で「愛」を育む

会社における部下と上司の関係以外に、私たちは多くの関係を持っている。その結びつきは、常にお互いが成長できるつながりでありたい。
「夫は妻へ 妻は夫へ」「親は子へ 子は親へ」「上司は部下へ 部下は上司へ」「師は弟子へ 弟子は師へ」と、お互いが、何を交換し、何を学び、何を得るか、それぞれ違うが、絶対にはずせないのは相手への「愛情」である。「夫婦愛」「親子愛」「師弟愛」である。



全国の経営幹部に熱烈に支持されている、高名な竹内日祥上人から、以前こんな話を聞いた。
自我に目覚めはじめた子どもがある日、親に尋ねる。
「お母さん、私とお父さんとどちらが大切?」
お母さんは答える。
「何を言っているの。あなたに決まっているじゃない」
「お父さんは元気で留守がいいの」とまでは言わなくても、親子の絆は何より深いと考えがちだ。しかし、母親の答えに、子どもは潜在的に「夫婦の愛」を疑い、自立するのを遅らせてしまうというのだ。

別の一組、子どもが母親に同じ質問をすると、母親はこう答える。
「あなたも大事。でもね、お父さんと一緒になったからあなたがいるの。だからお父さんが一番大事」
その答えに子どもは、「夫婦の愛」を信じ、父と母をつなぎとめる役目「子は鎹(かすがい)」の心配をせず、自立することを早めるそうだ。

「親子の愛」より「夫婦の愛」の方が大切と考え、夫婦の愛を全うしてこそ、親子の愛を築くことになる、ということだ。

十数年前、この話を聞いた時に正直、「難しい」と思った。
唯一血を分けた親子である。果たして家内は私に対してそう思うだろうか、と疑う自分もいた。

娘が1歳の誕生日を迎えた日、意地の悪い私は、さりげなく家内に尋ねた。
「この可愛い娘と、おれを選択するような場面に出くわしたらどうする?」
家内は即座に答えた。
「あなたに決まっているじゃない、あなたがいたからこの子がいるの~」
正直、驚いた。



その後、家内が「あなたはどうなの?」と聞かなかったことにも驚いた。
気恥ずかしいが、その時私は「二人睦まじくいたい」「命がけで家内を大切にしよう」と思った。この日は忘れられない。

思うに、この日が、「出会いは人生の宝」とか「人のつながりが大切」などと言いはじめた瞬間かもしれない。私は、自分がそう思う前に、相手にそう思え、と求めていた。何と身勝手なことか……。

竹内日祥上人は、「『親子の愛』より『夫婦の愛』が重く大切ですが、それより重く大切なのが『師弟の愛』です」と仰っていた。

部下と上司は相手を選べない、子どもと親も相手を選べない、しかし奇跡的に生じたご縁である。大切なご縁を育んでいきたい。
そして、お互いが相手を選んだ関係は「夫と妻」「彼と彼女」「友と友」そして「師と弟子」である。運命的な出会いの中から選び・選ばれた同士なのだから、まさに「人生の宝」である。

私を選んでくれた家内と、私を選んでくださった友と、息子を選んでいただいた先生に感謝し、「師弟愛」「友愛」「夫婦愛」「親子愛」を深めよう、そう心に誓った。


田辺 志保