2014年5月7日水曜日

カネボウの接客法「そ・そ・と・と」。

脈々と伝わる「顧客第一主義の精神」

新年度も進み新しい環境にも慣れてきて、好奇心あふれた楽しい日々をお過ごしの方、あるいはこんな筈ではない、と戸惑っている方など色々だと思う。
丁度この時期「五月病」という言葉が出てくる。「環境適応障害」と括られるようだが、5月連休明けの頃に、倦怠感や不眠を訴え、置かれている環境に苦痛を感じてしまうというのだ。
私が一番悲しいのは「〇〇が辞める~」と、耳にした時である。
新たな環境へ挑戦なのか、今の環境が辛いから逃避するのか、大いに気になる。
何れにせよ大切なことは、環境に適応できない本質的原因は何なのか、その原因にどう対応してきたのか、自ら分析することである。

私の鐘紡(カネボウ)入社は、昭和531978)年で、現在、入社から36年経つ。
我ながらよくぞここまで続いた、と感心してしまう。
古いと言われるかもしれないが、昔から「石の上にも3年」と、一人前になるには最低3年の我慢が必要と言われている。私の入社当時のカネボウは「3年ローテーション」制度があって、必ず新入社員を全員、赴任地も部署も共に異動・転勤させていた。
見習生の配属地を離れ、新しい任地先では「頼りになる若手社員」として受け入れる。新人としては大変だが、新任地に馴染む頃には地に足がついてきた。そして「3年ローテーション第2弾」として後輩の新人の養成係を仰せつかることになる。
私の場合も、入社5年目には、周りや後輩からも頼りにされていると実感した覚えがある。
今思うと、5月病どころの騒ぎでなく、課題が次から次へと出される特別授業のような日々で、余裕もなく追われ続けていた記憶しかない。

カネボウは、昨今語りきれない変化を遂げたが、化粧品事業の我々に流れる「顧客第一主義の精神」は普遍の価値観として変わることなく、その徹底に社員教育が継続されてきた。カネボウが化粧品業界の後発メーカーでありながら、ここまで成長してきた背景には手前味噌だが、人材育成の仕組みとそれによって輩出してきたマンパワーによるところが大きいと思う。
例えば、単に売上拡大を評価するだけでなく、顧客第一主義の評価軸としてお客様から頂戴した感動接客事例やお取引先様から頂戴した感動営業事例を、日々報告してもらい称えあう仕組みが出来ていた。
毎年、全国の感動事例を収集して、各地区で集められた好事例を紹介し、全国表彰式を開催することなどは、代表的な例である。この活動のお蔭で、当社のビューティーカウンセラーがカウンターにお越しいただける会員のお客様から「大変でしょうけど頑張ってね」と激励されたり、営業社員がお取引先様から支援されたりするといった事例の報告が数多くあった。本当に嬉しくて、感謝してもしきれないほどの喜びである。



我々は、お客様・お取引先様から「ありがとう」と言っていただける、そんな「感動接客・営業」を目指した。
その実りは大きい。お客様・お取引先様がお得意様となり、さらに知人・友人をご紹介してくださって熱烈な応援団・サポーターに。また、ビューティーカウンセラー・営業社員は、社内で接客・営業の「カリスマ」と呼ばれたりするようになり、ビューティーカウンセラー・営業社員冥利に尽き、モチベーションがさらに上がるのだ。

そうした接客・営業のカリスマはどんな努力をしたのだろうか?
まずは基本の徹底。ここでカネボウの基本的なビジネスマナーと、感動接客教育のほんの一部を紹介してみたいと思う。

「そ・そ・と・と」はカネボウ感動接客の極意

化粧品には特に、お客様にご紹介するときのマナーがある。セルフで自由に購入いただく物は、並べ方、陳列、POPなど売り場づくりが重要だが、接客する場合は、人のパワーがモノを言う。その基本が「そ・そ・と・と」だ。

「そ」は「揃える」。
高額な商品を目の前で紹介したり、商品やパンフレットなどを手に取ってお見せしたりする時は、必ず指を揃えることである。日本舞踊の手の動きのように、指を揃える。すると美しく、優雅に映る。

次の「そ」は「添える」の「そ」。
お客様をお席に誘導したり、コーナーや売り場へと行動を促したりする時は、必ずその方向に、言葉と共に手を添えることである。指でさすのではなく指を揃えることが肝心だ。
「こちらにどうぞ」と言いながら手を行き先に向けると、否応なくお客様の視線が、揃えた指先の延長線上に向くので自然に誘導できる。書類にご記入いただく時は、記入欄に揃えた指を添えることでスムースに記入していただける。

「と」は「止める」。
「ただ今ご紹介しました商品がこちらでございます」と、その商品を手に取って3秒間静止する。お客様の視線が、商品に向けられるまで待つのである。
商品に指を揃えて添え、無言の3秒。この時間は、「ああ、これなのね」と認識する時間だ。これは販売とは関係ないが、子どもとの接し方でも同じである。

最後の「と」は「止めどなく」の「と」である。
「止めどなく」とはお客様自身に止めどなく、つまり限りなくお話ししていただくことだ。こちらがお伝え、お勧めしたいことを一方的に話すのではなく、お客様からのご質問や、お考えを引き出すことが重要で、そうした「積極的傾聴」がカウンセリングの神髄である。以前、ザイアンスの法則を紹介した。相手の事を知れば知るほど好感度が増して、お互いの理解度が深まる、と。要するに、ワンランクアップ、上等なカスタマイズが可能になるのである。


「積極的傾聴」の実践

耳を傾けて聴くことを傾聴と言うが、積極的傾聴とは何? そう思われる方も多いと思う。積極的傾聴とは、お客様の発した言葉を繰り返すことで、お客様にご自身の話を真剣に聞いてくれている、と思っていただき、更にお客様の話を引き出すことである。
これは、オウム話法(オウム返し話法)、ミラー法といわれる営業ノウハウのひとつで、相手と同じ言葉や行動をとり、相手に安心感を与える。
「最近、肌がザラザラするの」と仰るお客様に、「ザラザラするのですか」と、同じ言葉を繰り返してから話をつなげる事だ。

「カサカサするのですか」と自分の表現、言葉を置きかえるのはダメ。それでは相手の世界に入れない。間違っても「乾燥ですね、保湿対策は~」などと返してはいけない。
お客様に保湿商品の売り込みと思われて、話は先に進まない。お客様はそこで口を閉ざしてしまう。
オウム話法の鉄則は、お客様が使った言葉を、そのまま返すことである。

オウム返しの会話が慣れてくると、そのうち相手の「心の言葉」を感じるようになる。
これはアプローチからクロージングまで使える基礎的テクニックである。不特定多数に向けての講演では、話が一方的にならないために、相手の返事はきっとこう返ってくるだろうと想定しながら話を進めると接客が面白くなる。

もうひとつ、ミラー法は、相手と同じ行動をとる事を言う。先方がお茶を飲めば自分も飲み、背筋を伸ばせば、自分も背筋を伸ばす。それが先方を安心させるのである。

多くの販売店様が集まる集合販売積極セミナーなどで、「皆さん、オウム話法とミラー法を用いれば、必ず効果がありますよ」と私が言う。
セミナー会場の皆様の中には、「本当に効果あるの?」と懐疑的な表情をされる方が少なからずいる。私は、その言葉を心で聞いて、見まわして静止3秒。
「本当です。やる事です。そしてそれを『やりきること』が重要です」と。
お客様からは「そんなこと、長続きできないわ」と返ってくる。
そこで私は、大きく頷きながら「どうやりきるかを、具体的にご説明しましょう」と続ける。
直接、会話をしていなくても、相手の顔をみて想定問答で進めると、これが結構、絶妙な「間」が取れる話し方になる。

相手の心の言葉を聞いてから、そこで止めるようにして話し始めることで、相手が聞きやすい「間」が取れるのである。まず耳(聴覚)で捉え、次に文字や商品を目(視覚)で確認していただく間にもつながる。
丁度自分の右肩と左肩から、それぞれの二人の会話で物語を演じる落語と同じである。
今からでも遅くはない。落語を学ぶことをおすすめしたい。

美しい立ち姿と正しいお辞儀

接客の基本と、会話の基本を覚えたら、最後の仕上げ、美しい立ち姿と正しいお辞儀で締めくくりたいものだ。
まず、正しいお辞儀をしてみよう。


背筋を伸ばし、かかとを付けて、自然に両手をゆったりと落すのが最も美しい立ち姿だ。男性なら指先を揃えてズボンの両サイドの縫い目に、中指を置く感じで立つといい。
そして、そのまま先方の目を見て、両手を自然に前にずらしながら腰から曲げる。会釈の場合は腰から15度、お辞儀は30度、丁寧なお辞儀は45度が基本だ。相手がワンテンポ遅れて、頭を下げていることを想定してお互いが頭を上げるタイミングで腰を戻す。ふたたび先方の目を見てお辞儀は終わる。途中で他の動作はしないことだ。

それでは、ここで皆様とともに、美しい立ち姿で正しいお辞儀をしたいと思う。率先して若い人たちの手本になれれば有難い。

起立、一同、礼。

田辺 志保